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留学生に知ってほしい「日本食」第3回 ざる蕎麦

Updated: May 30, 2019




 留学生にぜひ知ってもらいたい「日本の料理」についてお伝えしたいと思います。

皆さん「お蕎麦」は好きですか。最近のニュースで、「日本人が音を立てて蕎麦を煤のが良くない」というような記事がありましたが、日本人と蕎麦のことを知ればそんなことはないはずです。

今回は、様々な蕎麦の中でも「ざる蕎麦」をご紹介しましょう。


 ざる蕎麦とは、冷たく冷やした蕎麦を、少し濃いめの出汁につけて食べる料理です。少々薬味を入れはしますが、それ以外は、おかずなどもなく非常にシンプルな料理です。しかし、日本には非常に多くの「蕎麦屋」があり、その味も様々に違うので「シンプルだけど奥が深い」料理なのです。

ざる蕎麦は大きく分けて二つに分かれます。一つは蕎麦、そしてもう一つが出汁です。


蕎麦は、蕎麦の実を粉にした蕎麦粉に「つなぎ」と「水」を混ぜ練ったものを細く切り、それを茹でたものです。つなぎには、普通は小麦粉を使いますが、それ以外に地域によっては片栗粉や山芋、府海苔などを使うところもあります。

蕎麦の奥の深さは、蕎麦粉そのものの味とコク、香りや歯触りと、繋ぎとのバランス、そして水の味の混ぜ方でしょう。蕎麦粉そのものは、芳ばしく香りが強いものがほとんどです。その風味を残しながら、つなぎを使って食べやすくするということになります。

山形県や長野県など蕎麦処とい言われる場所には、つなぎを使わない「十割蕎麦」というものがあります。これは蕎麦粉だけで練ってありますから、その風味を十分に味わうことができますが、しかし少々舌触りがざらざらしてしまい、また、香りが強すぎて、出汁を十分に味わえない場合があります。そこで、つなぎをまぜて喉越しや舌触り、そして出汁との相性を良くするように工夫されたのです。落語でよく出る「二八蕎麦」は、つなぎが二割、蕎麦粉が八割という意味です。これが最も良い割合とされています。


次に出汁です。出汁は、蕎麦の香り、舌触りと合わせて、出汁の風味がうまく重なるように作られます。蕎麦の実は基本的には高い山の水はけのよいところでできますので、同じ山の食材である干し椎茸が昔は主流でした。

最近では昆布と鰹節の出汁が多いようです。昔、昆布は北海道などでしか取れない貴重な食材でしたから庶民の食べ物である蕎麦の出汁にはあまり使われなかったようです。特に「蕎麦処」は、蕎麦の実のできる場所が近いのでお寺の近くなどが多く、「殺生」を禁じる仏教の教えから煮干しや鰹節などはなるべく使わないということから、椎茸出汁が主流だったのです。

これが江戸の町の中に入ることによって、徐々に「味」を追求することになり、鰹節やにぼしが使われるようになり、そして、昆布が入るようになって昆布なども合わせた出汁になるのです。そこに、醤油やみりんなどの調味料を入れます。もちろん、こだわりの蕎麦屋では、これらの調味料にも他の食材との相性や、風味、それに甘みなどを考えて使うのです。


さて、ざる蕎麦を食べましょう。ざる蕎麦が出て来たら、まずは、蕎麦を少し、出汁につけないで食べてみてください。おいしいお蕎麦屋さんの場合は、蕎麦そのものに味と香りがあります。立ち食い蕎麦など、簡易な食堂の場合はそうでもないかもしれません。しかし、それでも蕎麦そのものの味わいが少しは残っていますし、つなぎの重要性なども見えてきます。

 次に、出汁も味わってみましょう。もちろん飲むのではなく、箸を出汁の中につけて軽く味わうという感じにしてください。ここでだしを飲んでしまうと、他のものの味がわからなくなってしまいます。出汁そのものの味わいは、醤油とみりんで整えてあります。たいていの場合、蕎麦そのものが「にがみ」がありますから、出汁は「甘さ」が出るように作られています。

都会の蕎麦に昆布だしが多いのは、甘みが残りやすいことからです。椎茸出汁ですと甘みよりもコクが強く出てしまいますから、みりんや醤油の量が多くなります。コクの強い椎茸出汁に醤油が強くなると、出汁が強くなってしまいますから、蕎麦の風味が消えてしまいます。ですからそのバランスが非常に難しいのです。


 さて、蕎麦と出汁を味わったら、蕎麦を出しにつけて食べましょう。蕎麦の風味を強く味わいたい場合は、出汁に少しだけ、蕎麦よりも出汁の味の方が自分の舌に合うようであれば、出汁を多めにつけてえ食べます。また、蕎麦の出汁が甘みが強いと思った場合は、出汁の中に「わさび」「七味唐辛子」「ネギ」などの薬味を入れます。これらの薬味は、辛みと刺激をつけることによって、味を際立たせる効果があります。また、これ等の薬味は「香り」を変えて、味を調和させる意味があります。日本料理は、「五感で味わうこと」が重要です。特に蕎麦の場合は、味だけではなく、コクと香りが蕎麦そのものの特徴ですから、香りと味を変える薬味を少し入れることによって、味が調和するのです。丁度「二人がけんか」しているときに「もう一人が入ることでバランスが取れる」というようなものではないでしょうか。

 わさびは、蕎麦の出汁の中において甘みの中に鼻に抜けるような辛さを合わせます。これによって蕎麦の強い香りと、出汁の甘い香りが喧嘩してしまう場合、その間をうまく埋めて二つの個性の強い味と香りを調和します。香りを消さないためには、七味唐辛子ということになります。もちろん七味唐辛子の中には山椒や蜜柑の皮などもありますが、それほど存在を主張しません。唐辛子のエグミを消す程度ですから、それほど問題になりません。ねぎは、コクと香りを演出するものです。このほかに、地方やお店によっては「胡麻」や「ショウガ」「ゆずの粉」などを入れるところもあります。江戸時代の『蕎麦全書』という本には「大根おろしのしぼり汁」とか「焼き味噌」なども薬味として使っていました。少々の辛みと蕎麦、出汁のバランスを整えるものですから、少し辛みと香りがあり蕎麦そのものを壊さない薬味が使われます。


 これらを全て同時に味わうのが蕎麦です。そして口だけではなく、嗅覚も十分に使ってください。そのためには、「混ざっている」という認識をするために音を立てて食べるのが良いとされています。

フランス料理のマナーでは「汚い」とされていますが、全ての味を食べ、なおかつすすって鼻からも思い切り息を吸い込むことで、周辺の香りもすべて取り込むのです。一口ずつすすることで、何回も味と香りを楽しむことができますし、薬味の量も調整することもできます。こうやって、蕎麦そのものの舌触り、味、蕎麦と出汁の香り、そして、すする音、これ等で楽しむのです。


 「あれっ、視覚で楽しめない」と思う方がいると思います。当然に風流を好んだ昔の人はそのことを良く考えています。

江戸時代の風俗を描いた『守貞漫稿』によると、「江戸では二八蕎麦にも皿は使わない。外側が朱塗りで、内側を黒く塗った器を使い、底に竹簀を敷いた上に蕎麦を盛る。」とあり、「蕎麦の茶色」「出汁の黒」だけではなく、「朱色」「黒」というお椀を使い、また出汁を入れてくるとっくりに「白」が使われます。蕎麦の器の内側が朱色なのは、黒い器に黒い出汁が入り、蕎麦を食べてゆくにしたがって、出汁が少なくなり、朱色が見えてくるという「面白さ」を演出しています。蕎麦が黒を払って、縁起の良い、稲荷神社などに使われている朱色を出すという事で「視覚的に縁起を担いている」ということになっているのです。このように器の部分で刺客を演出しているのです。

 蕎麦を食べ終わったら、温かい蕎麦湯を入れて、出汁を飲みます。出汁そのものでは濃すぎますから、味を薄めるということもありますが、蕎麦湯そのものも蕎麦のさまざまなエキスを取り込んでいますから健康に良いのです。そして工夫を凝らした出汁を全て飲むことで「もったいない」ということがないようにしているのです。

もちろん、視覚的なところもあり、縁起を担いで蕎麦湯を入れてくる「湯桶」は、朱色が普通です。朱色の湯桶から白い蕎麦湯が出て、最後に器のそこまで朱色に染める。なんだか初日の出みたいで縁起が良いですね。


 さて、蕎麦は長く、そして箸で切って食べるものではないので「切らず」とも呼ばれていました。そのために、「長く続く」という意味があり、非常に縁起の良い食べ物です。日本では一年の最後に「年越し蕎麦」として蕎麦を食べる習慣があります。昔は、数え年といって、全ての人が正月に1才歳をとる習慣があったのですが、その時に「切らず」と食べることによって、長寿を祝うことができました。また家族や親族で一緒に食べることによって「新しい年も縁が切れない」ということを意味していたのです。

 普段何気なく食べている蕎麦も、非常に奥が深いものですね。

蕎麦・だし・薬味、そして器まで楽しんで、日本食を味わっていただきたいと思います。


 日本食の奥の深さを楽しんで、粋な日本料理通になるために。

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