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留学生に知ってほしい「日本食」 第2回 おでん



 留学生にぜひ知ってもらいたい「日本の料理」についてお伝えしたいと思います。今回は「おでん」です。おでんは、漢字では「御田」と書きます。あれだけ魚などが入っていながら田んぼの田と書くのはおかしいのではないか?と思う人もいると思いますが、その辺も含めてこれからお話ししてゆきましょう。


そもそも「おでん」の起源は「田楽」からきています。平安時代に、中国から豆腐が伝来します。そして伝来と同時に、豆腐を串にさして焼いて食べるようになりました。

室町時代には、焼いた豆腐に味噌をつけるようになりました。料理の白い豆腐を串にさした形が、田植えの時に田の神を祀り豊作を祈願する田楽にでてくる田楽法師に似ているということから「田楽」と呼ばれるようになったといわれています。


江戸時代には、焼くだけではなく鍋の中で煮る「田楽」ができるようになります。この流れで、一つの流れでは「串」が無くなって「湯豆腐」になります。


一方、江戸時代の江戸っ子は、短気で喧嘩っ早いのが特徴だったので、焼いたり味噌をつけたりを待っていられません。

また「ミソをつける」といって失敗するというような縁起の悪い言葉につながるので、鍋から直接食べるようになりました。

江戸は近くに野田や銚子という醤油どころが多く、また江戸前の寿司があるくらいですから、魚介類も豊富でした。そこで魚介と鰹節で出汁をとって、醤油味で煮込む「おでん」が出てきたのです。


さて現在の「おでん」は、この歴史で見てわかるように、江戸で生まれたものです。

そこで、「田楽」と区別して「関東炊き」と呼ぶことがあります。上方の「煮込み田楽」と「関東炊き」は、その成り立ちが違います。煮込み田楽はあくまでも味噌や他の調味料をつける前提ですから薄味で、関東炊きは、そのまま食べるので、出汁にしっかり味がついています。ここからは関東炊きを中心に話します。


 基本的には鰹節に砂糖、みりんを入れた甘い汁で、「辛口の酒」とあいます。

江戸時代には、「おでん燗酒、甘いと辛い、あんばいよしよし」の掛け声で売っていました。そして、日本橋が築地の魚河岸に近かったことから、魚介類を使った練り物、さつまあげ・はんぺん・焼きちくわ・つみれ・がんもどき・ちくわなどが入るようになるのです。


 おでんの食べ方に作法はありません。日本の場合、酒の席に食事の作法はあまり気にしないが普通です。もちろん、人間関係に関するマナーや、目上の人よりも先に箸をつけないなどは、当然ですが、それは「食事の作法」ではなく、「みんなで飲むときの作法」です。しかし、同じ鍋からみんなで食べるので、鍋の中に汚いものを入れたり、自分の皿に盛った出汁を戻したりしてはいけません。他の人も同じ鍋のモノを食べるということが最も重要です。


 おでんの基本は「大根」「厚揚げ」「こんにゃく」の三種です。こんにゃくと厚揚げは、もともと「煮込み田楽」の頃から、もっとも古いおでんのネタです。

当然に、現在のおでんでもこの二つのネタを中心に出汁が工夫されています。

煮込み田楽が進化する過程で、このネタをおいしく食べるように鰹節の出汁などが江戸時代から工夫されているのです。

このこんにゃくと豆腐という食材は、もともと、その具材の中に水分が多いことが特徴です。それだけに焼いても問題がないのです。もともと味は豆腐ならば大豆、こんにゃくならば芋のほのかな甘みを湛えながら、水が多いので、少し薄まっている状態です。そこに出汁と、具に入っている昆布の風味やコクがこんにゃくや豆腐の水分の代わりに中に入って層の厚い味を構成します。

まずこの二つのネタを食べることで、煮込んでいる時間や出汁の味を見ることができます。


 大根は、大根おろしでわかるように少々辛い部分があります。その大根を長く煮込んでいると、柔らかくなり、咬まなくても大根がとろけるほどになるのです。そこまで柔らかい大根は、この出汁がたくさん入ったときの味を口の中に広げます。また、まだあまり煮込んでいない若い大根は、シャキシャキした歯触りと同時に、大根おろしのような辛みがあり、辛口の酒と合わさったときの口の中の味がよくわかるのです。大根は、一つのネタで、煮込んでいる時間によって味が変わるのです。

 この三つのネタを食べると、歴史とその店の出汁の特徴や味がよくわかるということになります。当然、そのおでんにある酒やほかの肴を決めることができますね。


 さて、日本料理の味は「五感全てで味わう」ということと「出汁の文化・引き算の料理」ということを感じることです。

そこで、「出汁」をもっと感じるために、次に「昆布」を食べてもらいたいのです。


 昆布は通常他の鍋物の場合は、「出汁だから食べない」食材です。しかし、実は昆布は「出汁の元」としてだけではなく、非常に奥の深い味があります。その表面のぬめりは、よくこすると、「とろろ昆布」のようになり、磯の香りと、味わいがあり、昆布の中に旨味が長い時間閉じ込める作用があります。そのうえ、その昆布の旨味が出たところに、鰹節の出汁が配流のですから、おいしくないはずがないのです。

 昆布は、海藻で繊維が強いのでよく噛むことになります。出汁の味を口の中に広げるには、よく奥歯で噛むことが必要ですが、昆布は、意識しないでそれができてしまいます。豆腐やこんにゃくでは味わえない出汁の味が昆布を食べることで出てくるのです。

 あとは、練り物が多いので好きなものを食べるとよいと思います。しかし、これでは「五感全てで楽しむ」という日本料理が表現できていません。

実はおでんはそれでよいのです。もともとは「田楽」であったことから「焼いた豆腐の上に味噌をつけて食べる」ということが基本です。焼いた熱い豆腐の上に味噌を乗せると、味噌が焼ける香ばしさがあたりに立ち上り、その味噌が炭火の上に落ちてパチパチという音が出るのです。

それを屋台で食べることから、こんにゃくと豆腐の歯触りの違いを楽しみながら、さまざまな景色やイベントを見て楽しんだり、田楽踊りを見たりということが基本であったのです。


 しかし、「田楽」から「おでん」に変化したところで、聴覚や嗅覚・視覚の刺激はなくしてしまっています。何しろ、せっかちな江戸っ子の食べ物が「おでん」つまり「関東炊き」ですから、優雅に五感全てを味わうようなものではなかったのかもしれません。

 それでも、昔の人は香ばしさを大事にしたので、「焼きちくわ」や「焼き豆腐」を入れたり、練り物も様々な形のモノや種類を変えること、または「御坊巻き」など、変わり種を入れることによって、「歯ざわり」や「咬んだ時の音」を新鮮に味わうようにするなど、さまざまな工夫をして、なるべく多くの感覚を使って楽しむようにしていたのです。


 それでも、やはり聴覚の部分はさみしいですね。料理から音が出ないのは、やはり練り物や豆腐など「柔らかいもの」が多いから、歯触りと音が楽しめないのです。

しかし、おでんを食べる場面を考えるとこれでよいのです。なぜならばおでんは「酒の肴」として食べられることが多いので、食べることだけを楽しむのではなく、他の楽しみの横におでんがあることになるからです。

つまり、酒の席で、会話を楽しみ、人の話を聞いたり、笑ったりという、みんなで食事をするときの楽しさを演出する一つの材料になっているから、音は逆にない方が会話の邪魔になりません。

また柔らかく、すぐに飲み込める具材が多いために、自分は話す順番になったときも、すぐに話し始められます。


 このように会話や酒の肴として、あるいは屋台でイベントの時の食材として発展してきた料理は、五感で味わう部分をわざと欠けた形で出して、その部分を親しい人との語らいやほかの主役に譲るのです。

「自分の役目をはみ出さない」ような料理というのも和を尊ぶ日本らしい料理といえるのではないでしょうか。そのために「鍋のまま」または「さらに盛り付けて」出すというおでんの出されたかがさまざまでも、違和感なく私たちが受け入れられることになるのです。


 現在では、長い時間煮込んで置いておく食材という意味から、コンビニエンスストアの人気食材になっています。しかし、本来ならば、親しい人と会話をしながら、同じ鍋に箸が届くくらいの近い距離で、辛口の冷たい酒を口に含みながら、たくさんの人で味わってもらいたい料理です。皆さんも是非、語らいの時におでんをお試しあれ。


 日本食の奥の深さを楽しんで、粋な日本料理通になるために。

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