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最終回「ASPARK Owl」カーデザイナー大津秀夫氏 独占インタビュー

Updated: Mar 18




 走っているところを見たのは発進加速の記録狙いのほう(カーボンむき出しの黒っぽい車)だけなのですが、単純な直線のごく短い距離を走るだけで、しかも記録もまだ出せていない時でしたし、その車は試験車両のようなもので、いわゆる完成状態ではなかったということもあってか、感慨のようなものはあまり感じませんでした。



30年近く前からコンセプトカーなどの製作に関わってきましたので、そういう瞬間に対してあまりありがたみを感じなくなってしまっているのかな、と思います。数少ない自分が全てデザインした車の1台なのですから、もうちょっと気分が高揚してもいいのに…、ちょっともったいないような気もしますね。

アスパーク社の車の時はそうだったのですが、その前にデザインしたIF-02RDS(赤い車)の1号車をテストコースで走らせている動画を初めて見た時は、むしろこちらのほうが、実際に見ているわけではないのに感慨深いものがありました。その動画を見たのは2013年の東京モーターショーの会場、イケヤフォーミュラさんのブースで展示車両の後ろに設置された大型モニターでだったのですが、本当にその車がモーターショー会場に展示されていて、その後ろでこの動画が流れている、その光景はちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが夢のようでもありました。こんな日が来るといいな…かつて何度もそう思っていたその光景でしたから。しばらくの間、達成感とか満足感とか充実感とか、そういう気持ちでいっぱいでした。



ただ、更に前の事を思い返してみれば…、自動車メーカーのコンセプトカーの製作でプロジェクトリーダーとして取り組むようになりはじめた頃(年齢的には30代の前半)、自分で設計し、製作の取りまとめをした車を自動車メーカーのテストコースに持ち込み、走行テストとプロモーションムービーの撮影に立ち会った時のほうが、(種類はちょっと違いますが)緊張と興奮の度合いは全然大きかったです。その時の車で自分のデザインが採用されたのはホイールカバー(ホイール本体でもなく、機能面での意味は無いただのカバー)だけでしたけど。


 話をアスパーク社の車に戻すと、フランクフルトショーに展示した車に関しては、私自身はショー会場には行っていませんので自分の目でその様子を見ることは無かったのですが、想像以上に好評だったようで、沢山のウェブサイトで取り上げられた写真を見て、あぁ良かった、うまくいったんだ…と思い、嬉しさがこみ上げたような気がします。開催前は、あの世界一大きな会場で、名も無いこの車は誰からも注目してもらえないのではないか…そういう不安がありました。アスパーク社がお披露目の場にフランクフルトショーを考えていると言ったときには、それはちょっと(上の理由で)心配だから、せめてジュネーブにしてはどうでしょう?(ジュネーブショーはフランクフルトやパリなどと並んで有名な国際ショーのひとつで、フランクフルトほどの規模は無いが、この種の新興メーカーでも出展しやすく、小規模メーカーのデザインオリエンテッドな車の出展が多く、メディアもそういう車を好意的に取材してくれる)と提案したくらいです。


 しかし、アスパーク社の吉田社長は“世界市場にインパクトを与える発表の場としてはフランクフルトがベスト。”と譲らず、こちらもそれ以上は言えませんでした。そんなことがあってのフランクフルトショー開幕だったわけですが、ふたを開けてみれば私の心配をよそに予想以上の大好評。特に海外のメディアには思いのほか取り上げられ(日本のメディアはちょっと冷めた、やや淋しい扱いでしたが)、それだけではなく“このままでいいからすぐ売ってくれ”とブラックカードを差し出された…というような気の早い引き合い話が数件あったとのことで、さすが世界一のフランクフルト、見に来る人のスケールも違う…と、驚くとともにひと安心した次第です。

 その後、年が明けて2018年2月、遅れていた0~100km/h発進加速2秒以下という記録もようやく達成され、2秒どころか1.8秒台も記録、条件によっては1.7秒台も視野に入れられるほどのところまでとなり、私達の開発プロジェクトは終了しました。






 カーデザイナーのほとんどはまず自動車メーカーかその種の有力なデザイン会社に所属するところからキャリアをスタートすると思いますので、私がそれを目指す人にアドバイスできるようなことは事実上ほとんど無いと思います。…と言ってしまっては身も蓋もないのですが、私は自動車会社のデザイン部などに所属したこともなければ美大はおろかデザイン系の専門学校等も行ったことがありません。だからカーデザイナーになるためのオーソドックスなルート、いわゆる王道を行くために役立つようなことは何一つ言えませんし、言っても説得力が無いと思います。


 また、技術的な面でも、例えばスケッチの描き方(手描きでもCGでも)や、CGレンダリング、(組織では必要となるであろう)プレゼンに関するテクニックなども、誰かに教えられるようなものは何ひとつ持ち合わせていません。そんなことですから自動車会社のデザイン部のような組織の中で仕事するのは全く自信が有りません。(若い時はそうでもないように思っていたんですが、今思うとどう考えても無理だったなとハッキリわかります)ですので、そういった組織に所属して日々仕事をこなす方々の技術面と、それ以外の我慢強さとか忍耐力とかストレス耐性には畏敬の念を抱きます。



 そんなイレギュラーな道をたどった、組織に属す能力の無い私ですが、もう20年くらい前、当時中学生の子からカーデザイナーになるにはどうしたらいいですか?というストレートな質問をメールだったか掲示板の書き込みだったかで受けたことがあって(その頃はその種の質問を受けることが時々あって、そのつどわりとまじめに返信していたのですが、それに対して簡単でもまた返事をいただけると嬉しいものでしたが、なしのつぶての方も少なくはなくて、まじめに返信するのがバカらしいようにも思える中、中学生というのはさすがに珍しいし、やり取りも感じが良くて覚えています)、返信で、自分がたどってきたルートはかなり変わったものでとても人様にすすめられたものではないけれどひとつの方法ではある、でも回り道しないためにはその種の実績のある(卒業生がちゃんとそういう職種につけている)美大や専門学校に行って、専門知識や技術を学んで周囲と切磋琢磨して自分の価値を高め、自動車会社のデザイン部のインターンになるとか、目指すデザイン会社に積極的にアピールするとか…、そういう方法が良いことであるのは間違いないので、そう出来るようにまずは高校は進学校に行って、その先の選択肢をなるべく多く持てるようにしてください、そのためには今の学校の勉強をしっかりやって下さい、というような事を書いたと思います。その中学生はこの返信にまた返信してくれて、とても喜んでくれていて、学校の勉強がんばります!とのことで、かわいい子だなと思い、その将来が彼の望むものになるよう祈らずにいられませんでした。


 今も中学生以下の方に聞かれれば同じように答えると思いますが、話に聞いたところでは、今はカーデザイナーを希望する学生が少なくなって少なくなって、レベルも相応で(高くはないという事)…、とても以前のような状況ではないらしいと。いつの間にそんな残念なことになってしまったのかなと思うんですが、これも時代の流れなのでしょうがないのかもしれませんが、こんなことでは日本のカーデザインが世界をリードするなんていうのは夢のまた夢、かもしれないです。


 そういうことで、あんまり偉そうなことは言えないのですが、自分が良いと思えるデザインをするためにいつも思っていることを書いてみます。

 美しいものを見たとき、カッコいいものを見たとき、どうしてそう感じるのか考えるといいと思います。なぜ自分はそれを美しいとかカッコいいと思うのか、それを整理して考えることによって少しずつそれが体系付けられていって自分がどんなものをデザインしたいのか、だんだんと明確になっていきます。そしてその幅や奥行きが広がれば、デザインするときにそれらがいわゆる引き出しのようなものになっていきます。引き出しの少ない私が言うのもなんですけど…。



 作ってみたいもの、デザインしてみたいものがあったらまずやってみること、スケッチでもCGでもいいので、納得いくまで何度も何度もやってみること。力いっぱい本気でやってみて、力尽きたら一旦終了、翌日見てみる。そうすると前日には感じられなかった違和感や未完成なところが目に付くと思いますので、その気になるところを修正、納得いくところまでやる、でまた翌日…、その繰り返しで完成度を高めていく。修正を加える前の状態を保存しておいて修正後のものと比較できるよう、そのつど保存できたほうが良いので、そういう面でCGは好都合ですね。



 3Dデータの作成も、最初は面倒に思うかもしれませんが、使えるようになればこんな良いものはありませんので是非やって欲しいです。設計の知識もあればそれを活かして検討することで、そのデザインが実現可能なものなのかどうかある程度自分で判断できるようになり、非常に説得力の有るデザインをすることが可能になります。

スキルアップのためには、まず丸ごと1台のデータを作ってみることです。それも何となく形を決めるのではなく、本当に自分の好きな形の車を。


 ソフトの操作を完全にマスターしていなくてもいいです。作っていく過程で必要に応じて調べて覚えていけばいいです。ある程度形になってくると気分が高揚してきて楽しくなります。ディティール作りに入っていくと、どこまで作り込むかにもよりますが、結構手間がかかるようになると思います。途中で嫌になってしまうかもしれません。でも本当に好きな形を作っているのなら、ちょっと休憩(何日かおくのも悪くない)すればまた作りたい気持ちが盛り上がってきて続けられます。作っていくと思いもかけなかった面倒なところが出てきて、こういうところは一体どうやって作ればいいんだろう?技術的にはどう考えればいいんだろう?と思うようなところも出てくると思いますが、そうしたらそういう疑問を持ったまま既存の車を色々見てみます。量産車でもコンセプトカーでもレーシングカーでも何でも。


 実車でもネットの画像検索でもいいです。そうすると世の中の車はこういう風に処理しているのか、先輩方もきっと苦労されたんだろうな、この巧妙な処理はさすがだな、など色々なことがわかってくると思います。中には、え?こんなのでいいの?というようなところもあるかもしれません。そういう箇所に出くわしたときは本当にそれでいいのかもう一度疑ってかかってみて、何か秘密が隠されていないか調査したり、自分ならもっと良い方法でやれそうだからそうやってみよう…というようにレベルアップというか引き出し追加のきっかけにしてほしいです。





デザインにかける情熱、といっていいかどうかわかりませんが、③の質問の回答の最後のほうで書いたこと、

“自分が本当に気に入ったものを作れれば、結果としてそれはオンリーワンになるのではないかと思っています。自分の好みを自分以上に反映できる人は他にいないからで、誰かと全く同じ好みという事は実際問題としてほぼ無いと思いますので。ただ、自分以上に良いものを作る人は世の中に沢山いて、とてもこんなものは自分には出来ないな…と思うこともしばしばあります。”


 これにつながるのですが、自分が作ったものよりも明らかに良い(いくつか好みではないところがあったとしても)、すばらしく好みだ、と思えるものに出会った時は“あぁ、やられた…”と思って背中のあたりがカァーッと熱くなったりします。これは、あせりのようなものを感じて一時的に体温が上がるのかなと思うのですが、そういうライバル心のようなものが湧き上がる場合はまだいいのですが、酷い時は自分の能力の低さにガッカリして、こんな良いものを作れる人がいるのなら自分がやらなくてもいいじゃないか、こういう人に任せればいいや、うんその方がいい…などと思ったりもします。素直に負けを認めるというか、まるっきり負け犬の精神状態です。


 ですがしばらくすると、やっぱりやらなければ、やって本当に良いもの、会心のものを作らなければ…、そうでなければ絶対に自分は満足できない、そう思い直します。思い直すまでにかかる時間はまちまちですが。



 どういうものを良いと思うのか、きれいとか美しいの判断基準はどうなのかというと、自分の感覚に正直に、としかいえないのですが、ただ自分の感覚に正直にといっても、根拠も無く自信だけ大きくしていってもどうしようもないので、そこは冷静に客観的な評価をしなければならないと思っています。その上で自分の感覚に正直に…、そしてその結果に責任を持つ、そいう覚悟は必要です。


 自分の目指す良いものがどういうものか、これは自分自信で考えを整理するためでもあるのですが、人の顔とか体に例えるとわかりやすく感じることがあります。例えば、目は目らしい位置に適切な大きさで整った形のものが2個。それがまぁ普通にいいと思うのですが、それをゴージャスに見せるために3個とか4個にして、目は基本大きいほうが魅力的だから可能な限り大きくして二重の幅もドカッと大きくしてしまおう、個性を際立たせるために目じりをグッと吊り上げよう、まつげは長いほうが魅力的だからここは思いきって30mmくらいいっとくか、鼻もうんと高くして…、まだ何か出来ないかな、両サイドにスペースがあるから若干小ぶりな鼻でもひとつずつ追加するか…、ということで何がしかのモノが出来上がったとして、おぉぉすばらしく魅力的!ゴージャスで最高!!


 …なんてことにはならないと思うんです。適度なバランスというものがありますよね。目は2個で適度な大きさの整った形、まつげの長さも適度で、鼻も顔の中央付近に形のいいものがひとつあるのがいいです。プロポーションが良くて、個々のパーツの形も良くて、それぞれの大きさや位置のバランスが良い。それが本来の美人さんなのではないかなと思うんです。


 自分が考える最高の美人さん。いろんなタイプの美人さんはいるけれど、彼女にするなら、結婚するなら、やっぱりオーソドックスな美人さんが一番いいなと思うんです。人間の場合は必ずしもそういうお相手にめぐり合うわけではないし、例えめぐり合えてもその思いが成就するとは限らない、むしろ成就しない、めぐり合わないほうが圧倒的に多いのが現実というものだと思いますが…、相手が、対象が自分でデザインするものだったら、がんばればかなりいい線いけるわけで…、なんだかもう変な人に思われかねないか心配ですがw 自分としては理想の恋人か奥さんに相当する車を作ろうとしているような感覚でいるということです。ずっとそばに置いておきたい、一生めでていたい、そう思えるような車です。




 自分が本当に納得する形であること、素直に美しい、カッコイイと思えるかどうか、それをいつも考えていて、それを追求した結果、結構いいものが出来たな…と自分で思えたらそれでいいです。それでお客様から喜んでもらえて、更に、大津さんらしいですねなどと言ってもらえたら嬉しいものです。(そういえば以前、知人から私のデザインした車を、なんだかちょっと猫っぽいですねと言われたことがあって、自分では全然そんなふうに思っていなかったのですが、そう言われて悪い気はしなかったです。猫好きなのでw)


 オンリーワンというのは、そういう外からの評価でわかるもので、少なくとも私には狙ってやれるものではないです。そうすべきでもないと思います。(本当に能力の高いデザイナーというのはそういう事が出来る人達なのかな、とも思います。そうだとすれば自分は一生一流にはなれないですね、間違いなく。)

 

 そう思いつつ…、実は時々自分のデザインしたものに惚れ惚れすることがあってw、はぁー、いいなぁ…などとまるで富士山を眺めたときのようにすがすがしい気分で、大きく吐いた息を吐きっぱなしのようになったりすることがあります。本当におめでたいやつだと自分で思いますww


 おめでたいというか、バカだなと思ったことをもうひとつ。

「デザインが実現できたことで何かご自身に変化はありましたか?」の質問の回答の最後のほうで書いた、“自分が作ったもので喜んで欲しい人に喜んでもらえる、カッコイイと言って欲しい人にカッコイイと言ってもらえる、こんないいことは他にありません。” というのに関係するのですが、何年か前のテレビドラマで主役のフレンチかイタリアンの女性シェフが、“私は恋人に愛してるって言われるよりも、作った料理をおいしいって言われるほうが嬉しい。”みたいなことを言うシーンがあって、それを見ていた時は、ええーそんなもんかな…、職人気質みたいなものを言いたいのかもしれないけど、あんまり説得力ないっていうか嘘っぽいなぁ…と思ったのですが、しばらくしてその気持ちがわかるような気がしました。

 いいものを作れたなと思った時に、“これすっごくカッコイイですね!”と、言って欲しい人に言ってもらえたら、そのほうが恋人に愛してると言われるより確かに自分は嬉しいかもしれない…、あぁ、あのセリフはまんざら嘘でもないんだ…。そう思えてしまって自分でも少しばかり驚きました。で、その自分自身で軽く驚いたこの妙な感覚のことを誰かに言いたくなって、よせばいいのに妻に“俺このセリフ、わかるような気がするんだ、いい物を作ったときに~”なんて話したところ、“私にはとても理解できない…”的なことを言われて、あぁ、やっぱり言わなきゃ良かった、オレサマのバカ…と思いましたw



■あとがき■


お忙しい時にご無理申し上げたにもかかわらず、

丁寧にご回答くださり、本当にありがとうございました。

気取らない、普段と変わらない穏やかな表現でありながら、

カーデザインにかける情熱、美しいものへの大津さんのこだわりが伝わって来ました。


デザインの役割とは、効率化と見た目の美しさを兼ね備えたものであり、

いろんな制約がある中で、いかに思いを実現するかというのがデザイナーの腕の見せ所ではないかと思います。


このASPARK OWLの外見は、どっしりとふくよかでエレガントでありながら、

どこか日本的な真面目さ、聡明さを持ち合わせた非常に魅力的なデザインと、

この車の性能を担当したイケヤフォーミュラさんの技術力は、まさに日本の底力。

課題として与えられた2秒を切るという難題をサクッと飛び越えてしまう。


世界がこの車に夢中になるように、我々日本人もこの車にもっと誇りを持つべきではないかと強く思うのです。


インタビュアー:真栄中美樹


第一回「ASPARK Owl」カーデザイナー大津秀夫氏 独占インタビュー

http://tinyurl.com/y25z9b9j

第二回「ASPARK Owl」カーデザイナー大津秀夫氏 独占インタビュー

http://tinyurl.com/y5q7w38o

第三回「ASPARK Owl」カーデザイナー大津秀夫氏 独占インタビュー

http://tinyurl.com/y27zpg23

第四回「ASPARK Owl」カーデザイナー大津秀夫氏 独占インタビュー

http://tinyurl.com/y6bbheex

第五回「ASPARK Owl」カーデザイナー大津秀夫氏 独占インタビュー

http://tinyurl.com/y6tqfzfo



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